銀が泣いている
阪田三吉を偲んで建てられた王将碑の横に「銀が泣いている」という名セリフで知られる盤面のオブジェがあります。
これは、大正2年(1913年)に東京で行われた、関根金治郎八段との香落ち戦の投了図を再現しています。盤面には”164手(4五歩)投了”と書かれており、天下が注目した一戦は三吉の勝ちとなりました。有名なセリフでおなじみのこの勝負は、てっきり三吉が負けたものだとばかり思っていたのですが、どうやら違っていました。
「棋神 阪田三吉」の第二章「銀が泣いている」は、この世紀の一戦を観戦記風に構成されたものです。対局前夜から終局までを、本局に立ち会ったかのような臨場感あふれる様子で描かれています。三吉が指した7五銀を迎え撃たんとして、5四に上がった関根の銀を見て、愕然としたところを後年、次のように語っています。
「わてはほんまに阿呆や。わてはほんに今まで悪うございました。常づね自分に言い聞かせていながら、強情過ぎました。あんまり勝負に拘り過ぎあせり過ぎました。これからは決して強情はいたしません。無理はいたしません、と阪田が銀になって泣いているんだす...。」
このときの棋譜を激指14の七段先生で解析させたのですが、初手からこの局面を過ぎてしばらくの間は、まだ微妙に下手+であり、形勢判断はほぼ互角の状態を示します。
棋譜解析の折れ線グラフを見ても、三吉翁が形勢を損ねて苦しんでいるという心境がいまいち伝わりません。(*関根八段の香落ち戦です、念のため)
100年前に行われた将棋を現代のソフトで判定することが野暮なのかもしれませんが、この勝負は一度も関根八段が優勢になることもなく終局を迎えており、次のように締めくくられます。
「殺されようとした銀が、かえって敵陣で存分の働きをすることができ、形勢一転してとうとうこの晴れの勝負に勝てた」
「銀が泣いている」というよりも「銀を泣かせて勝つ」のほうが、この対局を正しく伝えるように思いますが、いかがでしょうか。いずれにしても阪田三吉への興味は益々尽きません。
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